父が施設にいる実家は、誰が売るのか。価格の前に確かめる3つ
書いた人:川原貴諒(宅地建物取引士・大阪市西成区)父が施設にいる実家を売るとき、最初に確かめるのは、価格ではなくお父様の判断能力です。大阪市西成区の不動産会社TKグランクスが、母が亡くなり父が施設にいる方向けに、確かめる順番と、誰が売るかで変わる税金の入口を説明します。判断能力がない人がした契約は無効で(民法3条の2)、判断能力があるかを決めるのは、医師と家庭裁判所、登記を扱う司法書士です。
「母が亡くなって、父は施設です。実家は父に相続させて、父の名前で売って、お金をきょうだいで分けようと思っています」
大阪市西成区で不動産屋をしていて、相続の相談でよく聞く形です。筋は通っています。
先に結論を書きます。この相談で最初に確かめるのは、価格ではありません。お父様の判断能力です。ここが分からないまま査定をしても、あとで組み立てが全部ひっくり返ることがあります。
この記事は、確かめる順番と、誰が売るかで変わる税金の入口を書きます。言葉が難しいところもありますが、あなたが今日やることは3つだけです。お父様の様子を書き出す、登記の記録を1通取る、2つの日付をカレンダーに書く。詳しくは記事の最後にまとめました。
判断能力がないと、遺産分割も売買もできない
お父様が、ご自分の財産のことを理解して決められる状態か。これを「判断能力」と呼びます。判断能力がない人がした契約は、法律上なかったことになります(無効。民法3条の2)。
これは売買契約だけの話ではありません。遺産分割協議(誰が何を相続するかを相続人全員で決める話し合い)も同じです。お母様の相続人には、お父様も入っています。お父様の判断能力が足りなければ、「父に相続させる」も「子どもたちが相続する」も、話し合い自体がまとまりません。
「家族が代わりに判子を押せば」はできません。代わりに手続きをするには、家庭裁判所に成年後見人(本人に代わって財産を管理する人)を選んでもらいます。
後見人を立てても、関門が2つ残ります。
自宅を売るには家庭裁判所の許可が要ります(民法859条の3)。許可がなければ、その売買は無効です。施設に入っていても、もとの自宅は原則「お父様の住まい」として扱われます
後見人になった子とお父様が、どちらもお母様の相続人なら、話し合いで立場がぶつかります。この場合、後見人を見張る人(後見監督人)がいなければ、この話し合いのためだけの代理人(特別代理人)を、家庭裁判所に別に選んでもらいます
どちらも家庭裁判所の手続きで、日や週の単位では終わりません。どれくらいかかるかは家ごと・裁判所ごとに違うので、この記事では書きません。司法書士に聞けば、見通しを出してもらえます。もう一つ、後見は家を売ったあとも続きます。売るためだけの一時的な制度ではありません。
「お父様に相続を放棄してもらえば」と考える方もいます。放棄も家庭裁判所への手続きで、判断能力が要ります。判断能力が足りなければ、お父様ご本人は手続きできず、後見人が代わりに行う形になります。放棄には原則3か月の期限がありますが、この場合は後見人が相続を知った時から数えます(民法915条・917条)。「期限が切れる前に、急いで父に書いてもらう」は、やらないでください。
判断能力があるかどうかは、私たちが決めることではありません。医師と家庭裁判所、登記を扱う司法書士の判断です。司法書士は登記の前に、ご本人と会って確認します。
誰が相続して売るかで、税金の入口が変わる
お父様に判断能力があるとして、次の分かれ道です。組み立ては2つあります。
A お父様が相続して、お父様が売り、お金を子どもに渡す
お父様から子どもへお金を渡すのは贈与です。贈与税の話になります。年110万円までの枠を使うか、「相続時精算課税」(2,500万円まで贈与税がかからない代わりに、その分がお父様の将来の相続に乗る制度。令和6年からは年110万円までは別枠で、相続に乗りません。一度選ぶと戻せない)を使うか。
B お母様の相続で、最初から子どもたちが取得して売る
贈与は起きません。お母様の相続税の話だけになります。相続税には基礎控除があり、3,000万円+600万円×相続人の数です。遺産の合計がこの額以下なら、相続税はかかりません。お父様とお子様2人なら4,800万円です。
「売って分けたい」のが最初からの希望なら、Bはその形に沿っています。ただ、どちらが有利かは財産全体で変わります。決めるのは税理士です。Aだけを税理士に持って行かず、AとBを並べて聞いてください。Aだけ出せば、Aの計算が返ってくるだけです。
3,000万円の控除は2つあって、別物です
家を売って利益が出ると税金がかかります。これを軽くする「3,000万円の特別控除」は2種類あり、どちらが使えるかは「いつ、誰が住んでいたか」で決まります。
1つ目 相続した空き家の特例(Bの形で使う可能性があるもの。租税特別措置法35条3項)
亡くなったお母様が、亡くなる直前まで一人で住んでいた家が対象です。お父様が先に施設に入り、お母様が一人で暮らしていたなら、この点は当てはまる側です。お母様自身が施設に入っていた場合にも例外がありますが、施設に入る直前に要介護認定などを受けていたこと、入るまで一人で住んでいたこと、入った後に家を人に貸したり事業に使ったりしていないことなど、条件が重なります。ほかに、主な条件は次のとおりです。
昭和56年5月31日以前に建てられた家(今の耐震基準ができる前の家)
お母様が亡くなった日から3年目の年末までに売る
売値が1億円以下
耐震改修するか、取り壊して売る(令和6年からは、買主が売った翌年の2月15日までに改修・取り壊しをする形でもよい)
相続人が3人以上で売るときは、1人あたりの控除が2,000万円になる
この特例そのものにも期限があり、令和9年12月31日までに売ったものが対象です。
2つ目 自分が住んでいた家の特例(Aの形で、お父様が売るときのもの。同法35条1項)
お父様が住まなくなった日(施設に入った日)から3年目の年末までに売ることが条件です。施設に入ったから使えない、ということではありません。ただ、施設に入った事情で期限が延びる決まりもありません。入所が早かったなら、期限が近づいているかもしれません。
お母様が亡くなった日と、お父様が施設に入った日。この2つの日付で、使える特例と期限が変わります。使えるかどうかは税理士と税務署の判断です。
先に揃える紙
登記事項証明書(土地・建物):名義がお母様だけか、お父様との共有か。共有なら、お父様の持分は最初からお父様のもの
お母様の戸籍(出生から死亡まで)と相続人の戸籍:相続人が誰か。前の結婚の子や養子がいないか
遺言の有無:あれば、遺産分割協議が要らないことがある
お父様の状況(施設名・入所日・要介護認定):判断能力の確認の入口
時系列(お母様はいつまで住んでいたか、お父様はいつ入所したか):3,000万円控除の可否と期限
建物の建築年:空き家特例の条件(昭和56年5月31日以前か)
登記簿を取ってから査定までの順番と費用は、「順番と費用」の記事に書きました。売らずに貸す・持つという道は「売る・貸す・持つ」の記事にあります。
出口は、2つ並べる
A お父様が相続して売る:売るのはお父様(後見なら後見人。自宅の売却は家庭裁判所の許可)。税金の入口は贈与税(お金を子に渡すため)と、自分が住んでいた家の3,000万円控除
B 子どもたちが相続して売る:売るのは子どもたち。税金の入口は相続税と、相続した空き家の3,000万円控除
どちらの出口でも、入口は同じです。お父様が遺産分割の話し合いに加われるかどうか。ここが決まってから、AとBを並べます。
遺言があれば、話し合い自体が要らないことがあります。話し合いをせずに法律で決まった割合のまま登記した場合も、家を売るには持ち主全員の同意が要ります(民法251条)。その中にはお父様も入ります。どの道を通っても、お父様の関わりは消えません。
今日できること、3つ
お父様の施設名、入所日、要介護認定の有無、普段の会話の様子を、家族で書き出す。言いにくい話ですが、ここが最初の分かれ道です
登記事項証明書を取る。法務局で誰でも取れます。名義がお母様だけか共有か、ここで分かります。読むのは私たちがやります
お母様が亡くなった日と、お父様が施設に入った日を、カレンダーに書く。2つの日付が、使える控除と期限を決めます
費用のこと
相談と、現地への同行に費用はかかりません
後見の申立てには、収入印紙代や、医師の鑑定費用がかかる場合があります。金額は家庭裁判所・司法書士にご確認ください
仲介手数料をいただくのは、売買契約が成立したときだけです。上限は法律で決まっています。800万円以下の家は特例で上限33万円+税。売却を頼む契約(媒介契約)を結ぶときに書面で確認します
司法書士(後見・登記)、税理士(相続税・贈与税・控除)への費用は別にかかります。誰に何を頼む必要があるかは、面談で一覧にします
よくある質問
Q. 父の判断能力は、誰が決めるのですか
A. 私たちではありません。医師と家庭裁判所、登記を扱う司法書士の判断です。
Q. 今から家族信託や任意後見にしておけばいいのでは
A. どちらも、判断能力があるうちにしか結べない契約です。すでに判断が怪しいなら、家庭裁判所が後見人を選ぶ手続き(法定後見)の話になります。
Q. 3,000万円の控除は、うちでも使えますか
A. 税理士と税務署の判断です。この記事の2つの特例は、条件も期限も別物です。2つの日付を整理してから、税理士に持って行ってください。
価格の前に、お父様のこと。
まだ売ると決めていなくて構いません。「誰が売るのか、まだ整理できていない」の段階で、LINEでご相談ください。相談に費用はかかりません。返事をするのは、宅地建物取引士の川原本人です。相続以外のご事情(住み替え、転勤、離婚)でも、同じ窓口で構いません。
売ると決まったら、売却専用ページに進み方をまとめてあります。
https://tk-granks.co.jp/sell
西成区の家なら、西成区専用のページもあります。
https://tk-granks.co.jp/nishinari
友だち追加のあと、「実家、売る前に自分で見る4か所」の1枚(A4)をお送りします。
大阪市西成区の不動産屋 TKグランクス株式会社 川原貴諒(宅地建物取引士)
LINE:https://lin.ee/8wVUuCW / お問い合わせ:https://tk-granks.co.jp/contact
LINEは、この記事の題と「売るか迷っている」の一言で大丈夫です。
chatLINEで相談する(無料)
コラム一覧へ戻る